2010年10月10日

「政策分析ネットワーク賞」受賞作品と選考過程の報告

○会員広報
「政策分析ネットワーク賞」受賞作品と選考過程の報告 
(選考委員会司会者 原田泰)

*政策分析ネットワーク賞(本賞)
『「社会的入院」の研究』東洋経済新報社 2009年4月刊行
(印南一路 慶応大学総合政策学部教授) 1958年生

*政策分析ネットワーク賞(奨励賞)
『だまされないための年金・医療・介護入門
 社会保障改革の正しい見方・考え方』東洋経済新報社 2009年2月刊行
(鈴木亘 学習院大学経済学部教授)   1970年生

*政策分析ネットワーク賞(シンクタンク賞)
『恐慌脱出』東洋経済新報社         2009年5月刊行
(安達誠司 ドイツ証券シニア・エコノミスト)1965年生

*政策分析ネットワーク賞(『季刊政策分析』優秀論文賞)
岡田靖・浜田宏一著「実質為替レートと失われた10年」
『季刊政策分析』第4巻第1・2合併号(2009年3月)
(浜田宏一:イェール大学教授)1936年生
(岡田 靖:本年4月にご逝去) 1950年生-2010年没

■選考委員(政策分析ネットワーク関係者以外は50音順)
猪口 孝 (新潟県立大学学長)
曽根 泰教(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)
八田 達夫(政策研究大学院大学学長)
森田 朗 (東京大学公共政策大学院教授)
伊藤 元重(東京大学大学院経済研究科教授)政策分析ネットワーク共同代表
鵜飼 康東(関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構長)
政策分析ネットワーク共同代表、『季刊政策分析』編集長
原田 泰 (大和総研専務理事チーフエコノミスト)
      政策分析ネットワーク共同代表、『季刊政策分析』副編集長
田幸 大輔(経済同友会企画部マネジャー)政策分析ネットワーク事務局長


 政策分析ネットワークの設立10周年を記念し、より良い社会のための政策分析が一層の発展をすることを願って、政策分析ネットワーク賞(本賞および奨励賞)、政策分析ネットワーク・シンクタンク賞、『季刊政策分析』優秀論文賞を昨年設置することに決めておりましたが、本年、上記のように第1回の賞が決定されました。以下、選考過程をご報告します。

 候補作品は、2009年中に発刊された著書及び論文のうちから、政策分析ネットワーク会員とこれまで当会にご協力いただいた有識者の方々にご推薦いただきました。ご推薦いただいた著作の中から、事務局で各賞数点に絞ったうえで、本年9月15日夕刻より、選考委員の方々に審議していただきました。審議の過程と受賞作品は以下の通りです。

 政策分析ネットワーク賞(本賞)は、印南一路著『「社会的入院」の研究』(東洋経済新報社)に決定しました。社会的入院という社会の関心の高いテーマに対して、緻密な分析により、病床が多すぎ、病床当たりのマンパワーが不足していることが治療の密度を低下させ、それが寝たきりを生むということを明確な論理と実証で明らかにした上で、斬新な政策提言を行っていることが高く評価されました。分析に当たっては、当事者の発言を丹念に聞きながらも鵜呑みにせず、マイクロデータを十分に活用していることが評価されました。一部選考委員より実証分析として、医療サービス需要者の行動分析が脆弱であるなど、不十分なところがあるとの指摘もありましたが、多くの研究者に研究テーマとデータの存在を知らしめた功績は大きいと判断されました。

 政策分析ネットワーク賞(奨励賞)は、鈴木亘著『だまされないための年金・医療・介護入門 社会保障改革の正しい見方・考え方』(東洋経済新報社)に決定しました。年金・医療・介護は多くの国民の高い関心事で、類書も多く出版されています。中には、粗雑なあるいは誤った論理と事実を提供しているものもありますが、本書は、経済学の眼を通じて、制度の問題点を包括的に指摘しています。いわゆる制度の専門家の議論への批判は鋭く、このような専門家が見逃すインセンティブの問題を多数、指摘しています。さらに、啓蒙書でありながら、多くの分析が査読付き専門誌に掲載された自らの論文に基づいていることが高く評価されました。一部選考委員より政策シミュレーションのいくつかが専門誌に掲載されたものではないので不安が残るとの指摘がありましたが、本書の価値を大きく下げるものではないと判断されました。

 シンクタンク賞は、安達誠司著『恐慌脱出』(東洋経済新報社)に決定しました。現在の世界金融危機を、1907年と1930年という過去の危機と現在のアメリカの政策と日本の政策との比較で捉え、巧みな文章で金融部門が原因である金融危機の発生過程とそこからの脱出策を論じています。執筆時点で回復はアメリカから始まり、ヨーロッパこそが苦境に陥るという見立ては、現在になってみると、著者の分析の確からしさを示しています。仮説の統計的検証が不十分で著者の直感で書いているところがある、アジアの発展についての否定的な見方は、勇み足ではないかとの指摘もありましたが、シンクタンクとして大胆な予測をすることも時には必要ということで、本書に対する評価は変わりませんでした。

 『季刊政策分析』優秀論文賞は、岡田靖・浜田宏一著「実質為替レートと失われた10年」(『季刊政策分析』第4巻第1・2合併号、2009年3月)に決定されました。「失われた十年」がなぜ起こったかについては、金融面、実物面両面からの分析がありますが、本論文は、金融面のうちの、これまでさほど注目されてこなかった為替レートという要因を指摘しています。本論文は、円高と経済停滞との関係が看過されてきた理由として、円高と交易条件の改善が同義であると誤解され、「円高は当然だし好ましい」という通念がこの時代にあったとしています。その上で、実質為替レートと交易条件とは逆方向にも動くこと、このことが認識されなかったことが過度の円高を放置する政策対応を生み、長期の経済停滞を引き起こす原因となったと指摘しています。この内容が、分析も政策提案も明快で興味深いと高く評価されました。

 受賞者には賞碑と賞金が贈られます。また、受賞者の方々には、授賞式への出席と秋または春の政策メッセでの報告をお願いしております。

 選考過程を通じて、受賞作品は、政策提案が分析に基づくものでなければならないということがより明らかになったように思われます。すなわち、受賞作品は、単に政策を論じたものではなく、また、最先端の理論的問題の分析の最後に政策的含意が付随しているものでもありません。それは社会が解決を必要としている問題に分析をもって政策提言するものでなければならないということです。第1回の受賞作品は、いずれもこの要請を満たしています。また、受賞作品4点のテーマのうち、2点が社会保障政策、2点が金融政策であったことは、現在の重要な政策課題への社会の関心を反映する結果になったと思います。
若手研究者に与えられる奨励賞については、当初、選考委員会では、年令基準を厳しくすることが難しいのではないかと懸念されていました。しかし、今回の受賞作、候補作を見ますと、これまで50歳未満(もしくは政策研究を始めてからの年月が若いこと)という基準を、45歳未満(40歳未満を優先する)とすることも考えられほど、若い世代の優秀な著作が集まっていました。これは嬉しい誤算と言えるでしょう。

 候補作をご推薦いただいた政策分析ネットワーク会員と有識者の方々にはご協力を心から感謝申し上げます。シンクタンク賞につきましては、○○総合研究所という、いわゆるシンクタンクの会報に掲載された論文を多数ご推薦いただきましたが、いずれも力不足ということで外資系証券会社勤務の民間エコノミストの著作に決定いたしました。ご推薦していただいた方々には申し訳ありませんでしたが、シンクタンクは元々広い概念で考えており、シンクタンクの研究者の定義は、「非アカデミズムの研究者であり、官庁、大学設置の研究所の研究者は入らない」としていますので、受賞者の適格性には問題がありません。
『季刊政策分析』優秀論文賞は、当面、過去に掲載された全部の論文を対象とするとしております。残念ながら、『季刊政策分析』掲載される論文が年間で数本程度である現状に鑑み、この方針を来年以降も続けたいと思っております。厳密な査読誌であるという『季刊政策分析』の方針は今後も堅持いたしますが、会員及び読者の皆様方には、積極的な投稿をお願いしたいと思います。

(2010年9月15日)  

Posted by policynet at 11:11